1.作動可能な温度範囲と出力との関係
(1) シリンダ内作動ガスの温度分布
図1は、D250でディスプレーサの厚さtD=30において、加熱壁面上の温度Tmax(加熱量)を変えたときのシリンダ内作動ガス温度の測定結果である。 図1をみると、加熱温度を変化させても、冷却壁面上の温度と作動ガスの温度とは、ほとんど差がないのに対して、加熱壁面上の温度と作動ガスの温度とは、加熱壁面上の温度Tmaxに応じてやや差が大きく生じている。また、シリンダ内軸方向(作動ガスの通路)の作動ガス温度は、加熱壁面上の近傍で大きく変化し、加熱壁面から7.5o以上離れると、温度変化は緩やかでほぼ直線的になっているのがみられる。
図1 シリンダ内作動ガスの温度分布
(2) シュミット理論と実測とによる図示出力
シュミット理論による計算と実測とによる結果について検討する。 図2はD100において、圧縮比ε=1.015、ガス温度差ΔT=5℃、エンジン回転数N=26
rpmのとき、また、図3はD250において、ε=1.008, ΔT=2℃、N=20 rpmのときのp−v線図であって、いずれも図中の実線は実測によるもの、破線はシュミット理論による計算結果である。
一方、図4はD100において、ε=1.015、ΔT=40℃、そしてN=370 rpmのとき、また、図5はD250において、ε=1.008、ΔT=50℃、そしてN=265
rpmのときのp−v線図である。これらの図より、温度差ΔTが小さい場合には、計算と実測とは極めてよく一致するが、ΔTが大きくなると計算と実測とは、大きく相違してくることがわかる。これは、加熱量が少なく温度差ΔTが小さいと、シリンダ内の作動ガスの温度は、図1で見られるようにほぼ一様に変化しており、またエンジン回転数も低く、作動ガスの通路を通るガスの流速も低いので、加熱及び冷却壁面と作動ガスとの間の熱交換はゆっくりと行われる。したがって、温度差ΔTの小さい場合には、シュミット理論での過程がほぼ成り立つためと考えられる。これに反して、加熱量が増加しΔTが大きくなると、加熱空間側の温度分布は大きく変化し、作動空間各点の温度差も大きくなるので、代表温度の決め方については、今後十分に検討されなければならない問題である。
図2 D100形エンジンの計算と実測との比較 (N=26rpm)
図3 D250形エンジンの計算と実測との比較 (N=20rpm)
図4 D100形エンジンの計算と実測との比較 (N=370rpm)
図5 D250形エンジンの計算と実測との比較 (N=265rpm)
2. 圧縮比と起動開始温度との関係
図6及び7は、D100、D250それぞれのエンジンについて、加熱量を加減してエンジン回転数を変化させ、これとガス温度差ΔT並びに図示出力とを、圧縮比εをパラメータとして図示したものである。これを見ると、いずれのエンジンにおいてもεを高くすると出力は増加するが、逆にεを低くするとΔTが大きいにもかかわらず、出力が小さくなっているのがわかる。 図8は、一例としてガス温度差ΔT=10℃の場合、圧縮比εに対する図示仕事及び図示出力を示したものである。更にΔTを変えた場合についても、また同様の図が得られるが、ΔTの大きさに応じてεをある限度以上に高くしても、あるいは限度以下に低くしても、エンジンは運転不能に陥ってしまった。これは圧縮比を高くすると、作動ガスを圧縮するための仕事量が増大し、また逆にεを低くすると、作動ガスの仕事量が減ってしまうためであると思われる。これより、ΔTとεとの間には密接な関係があり、ある決まった寸法のエンジンに対して、最大図示出力を得るための最適条件があるものと予想される。
図6 D100形エンジンの温度差及び図示出力
図7 D250形エンジンの温度差及び図示出力
図8 圧縮比に対する図示仕事及び図示出力 (ΔT=10℃の場合)
(1) 運転を開始する作動ガスの温度
図9は、D100及びD250について、圧縮比εをさまざまに変えたとき、エンジンが自力運転を開始する作動ガスの温度差(以下これを運転開始温度差ΔTminと呼ぶ)ΔTminを測定し、これとεとの関係を図示したものである。これをみると、D100及びD250いずれのエンジンに対しても、ΔTminはεに関係し、εの変化によるΔTminには最低値が存在するということがわかる。そして、D250に対してはεが1.008でΔTminが約2℃、D100に対してはεが1.015でΔTminは約5℃となっている。このように、D250の方がΔTminは小さいのは、本実験条件の範囲では、両エンジンのガスの仕事量に対する摺動部の摩擦損失仕事の割合は、温度差ΔTが同じであってもD250の方が大きいためであると考えられる。なお、このときの出力は、D250で0.38
mW、そして、D100では0.29 mWであった。これより、一般に極低温度差スターリングエンジンを運転可能にするためには、軸受けその他の摺動部の摩擦抵抗を極力小さくしなければならない、ということがわかる。
図9 圧縮比と運転開始温度との関係
(2) 再生器の影響
図10、11は、D100及びD250それぞれのエンジンについて、加熱量を加減してエンジン回転数を変化させ、これとガス温度差ΔT並びに図示出力との関係を示したものである。これらの図を見ると、D100及びD250いずれのエンジンについても、同一ガス温度差に対する図示出力は、再生器のある方が大きく、ガス温度差ΔTが大きくなるに従って(加熱量を増すと)、ますます大きくなっていくのが見られる。これより、ガス温度差が大きくなればなるほど再生器の効果は顕著となるが、ガス温度差の非常に低い領域では、再生器の効果は殆ど認められず、そして運転開始温度差ΔTminは、D100及びD250いずれのエンジンに対しても、再生器のある、なしには無関係である。
図10 D100形エンジンにおける再生器の影響
図11 D250形エンジンにおける再生器の影響
上述のように、極低温度差スターリングエンジンを設計・試作し、このエンジンを運転して性能特性を調べることによって、次の結果を得た。
図示出力のシュミット理論による計算と実測とは、作動ガスの温度差ΔTが小さい領域においては、きわめてよく一致する。これに反して、ΔTが大きくなると(供給熱量を増すと)、図示出力のシュミット理論による計算と実測とは、相違する。これは作動空間内の温度分布が、加熱量の増加とともに大きく変化するため、ここで測定された作動ガスの温度差をそのまま代表温度とすることに、問題があるように思われ、今後十分に検討されるべき問題である。
図示出力は作動ガスの温度差ΔTと圧縮比εとに大きく依存する。そして、ある決まった寸法のエンジンについて、最大図示出力を得るためのΔTとεとの間には、最適条件がある。エンジンが運転を開始する作動ガスの温度差ΔTminは圧縮比εに関係し、εの変化によるΔTminの最低値が存在する。そして、D250については、ε=1.008で約ΔTmin=2℃、D100については、ε=1.015で約ΔTmin=5℃が得られた。これより類推して、一般にエンジン摺動部の摩擦抵抗を極限状態にまで軽減させることができれば、高温源と低温源との極めて小さい温度差で運転可能なスターリングエンジンは、実現する。
再生器は、作動ガス温度差ΔTの小さい領域では、何の効果もなく、またエンジンが運転を開始する作動ガス温度差ΔTminにも影響を及ぼさない。しかし、温度差ΔTが大きくなると(供給熱量を増すと)、再生器は図示出力の向上に大きな影響を及ぼし、ΔTが大きくなればなるほど、また図示仕事が大きくなればなるほど、その効果はますます顕著になる。したがって、低温度差スターリングエンジンの高出力化にとって再生器は、非常に重要要素である。
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